「最近、股の付け根に何かポコっとしたものがある…」「立ち上がると違和感がある…」
そんな症状に心当たりがある方は、もしかすると鼠径ヘルニアかもしれません。聞き慣れない病名かもしれませんが、実は身近で起こりやすい病気の一つです。
今回は、見過ごしがちだけれど放置すると危険な鼠径ヘルニアについて、分かりやすく解説していきます。
鼠径ヘルニアって何?
鼠径ヘルニアとは、股の付け根や下腹部にある筋肉の隙間から、本来あるべき場所にいるはずの腸などの臓器が外に飛び出してしまう病気です。
昔から「脱腸」という名前でも知られています。「腸が脱出する」と書くので、なんとなくイメージしやすいかもしれませんね。
この病気の厄介なところは、自然に治ることが絶対にないということ。時間が経つにつれて徐々に悪化していき、最終的には手術が必要になります。
そして何より注意すべきは、放置すると命に関わる危険な合併症を起こす可能性があることです。
「もしかして鼠径ヘルニア?」チェックしてみましょう
次のような症状に心当たりがある方は、鼠径ヘルニアの可能性があります。
よくある症状
- 股の付け根にポコっとした膨らみがある
- 立ったり、咳をしたりすると膨らみが大きくなる
- 横になって休むと膨らみが引っ込む
- 膨らみを指で押すと中に戻っていく
- なんとなく違和感や軽い痛みがある
これらは比較的軽い症状ですが、放置すると次第に悪化していきます。
危険な症状 ※すぐに病院へ!
以下のような症状が現れた場合は、緊急事態です。迷わずすぐに病院に行ってください。
- 膨らみが硬くなって押しても戻らない
- 激しい痛みや吐き気がある
- 発熱やお腹の張りを感じる
これは「絞扼性ヘルニア」という状態で、腸が締め付けられて血の流れが止まってしまっている可能性があります。腸が壊死してしまう前に、緊急手術が必要になります。
放置すると本当に危険です
「ちょっと膨らんでいるだけで痛くもないし、生活に支障もないから大丈夫でしょ」
そう思って放置してしまう方が多いのですが、これは非常に危険な判断です。
放置することで起こりうるリスク
慢性的な不快感 最初は軽い違和感でも、徐々に痛みや重だるさが増していきます。
腸閉塞 腸が詰まってしまい、便やガスが通らなくなる状態です。激しい腹痛や嘔吐を伴います。
腸の壊死 最も恐ろしいのがこれ。血流が止まった腸が死んでしまい、命に関わる状態になります。
「痛くないから大丈夫」という油断が、取り返しのつかない事態を招くことがあります。症状が軽いうちこそ、適切な対処が重要なのです。
正しい対処法を知っておきましょう
1. まずはセルフチェック
| チェック内容 | 状態 | 受診の目安 |
|---|---|---|
| 立ったときに膨らみが出る | ○ | 鼠径ヘルニアの可能性。受診を検討 |
| 横になると膨らみが消える | ○ | 進行中のヘルニア。外科受診を推奨 |
| 膨らみが硬く戻らない | × | 今すぐ緊急受診が必要 |
| 強い痛み・吐き気がある | × | 救急車を呼ぶレベル |
○印がついた方は、症状が軽くても早めに病院を受診することをおすすめします。×印がついた方は、迷わず救急外来へ向かってください。
2. 適切な医療機関を受診する
鼠径ヘルニアの診断・治療は、外科または消化器外科が専門です。
「ちょっと恥ずかしいな…」と思うかもしれませんが、医師にとっては日常的に診ている病気です。遠慮せずに相談してみてください。
3. 治療について理解する
鼠径ヘルニアは残念ながら薬では治りません。根本的な治療方法は手術のみです。
しかし、現在の医療技術の進歩により、患者さんへの負担は大幅に軽減されています。
主な手術方法
日帰り手術(腹腔鏡・メッシュ法)
- 傷が小さく、回復が早い
- 入院の必要がないケースも多い
- 仕事復帰も比較的スムーズ
- 現在最も多く選択される方法
従来の開腹手術
- 再発例や複雑なケースで選択されることがある
- 入院期間は数日から1週間程度
「手術」と聞くと大げさに感じるかもしれませんが、現在では多くの場合、朝病院に行って夕方には自宅に帰れるほど負担の少ない治療になっています。
再発を防ぐ生活の工夫
手術後の再発予防や、症状の悪化を防ぐためには、日常生活でちょっとした工夫が大切です。
腹圧を上げない生活を心がける
便秘対策
- 食物繊維を意識的に摂取する
- 十分な水分を取る
- 規則正しい排便習慣をつける
咳対策
- 長引く咳は早めに治療する
- 禁煙する(慢性的な咳の原因となるため)
日常動作の注意
- 重いものを持ち上げる動作はできるだけ避ける
- 持ち上げる時は膝を曲げて腰を落とす
- 急激に力を入れる動作は控える
筋力維持
- 適度な運動で腹筋や背筋を鍛える
- ウォーキングなどの軽い有酸素運動を続ける
まとめ
鼠径ヘルニアは、初期症状では「股の付け根のちょっとした膨らみ」程度で済みますが、放置すると腸閉塞や腸の壊死など、命に関わる危険な状態を引き起こす可能性があります。
現在の医療技術なら、多くの場合で日帰り手術が可能で、患者さんの負担も最小限に抑えられます。早期発見・早期治療が何より大切です。
「もしかして…」と思う症状がある方は、恥ずかしがらずに一度外科を受診してみてください。早めの行動が、健康で安心な毎日を守る第一歩になります。

