そけい部(足の付け根)にしこりや膨らみ、違和感があると「もしかして性病?」と不安になり、病院への受診を躊躇してしまう方が少なくありません。インターネットで検索すると梅毒の情報が多く表示されるため、より不安が増してしまうこともあるでしょう。
しかし実際には、そけい部の症状はそけい部ヘルニアである可能性が圧倒的に高いことをご存知でしょうか。この記事では、外科医の視点から、そけい部ヘルニアと梅毒の違い、症状の見分け方、放置した場合のリスクについて詳しく解説します。
そけい部の症状:梅毒よりそけい部ヘルニアが圧倒的に多い
発生件数の比較
そけい部に症状が現れる疾患として、梅毒とそけい部ヘルニアがありますが、その発生頻度には大きな差があります。
- 梅毒の年間報告数:約1万件
- そけい部ヘルニアの年間手術件数:約15万件
つまり、そけい部ヘルニアは梅毒の約15倍もの件数が報告されています。泌尿器科を受診して「梅毒かと思ったが、そけい部ヘルニアだった」として外科に紹介されるケースは非常に多いのが実情です。
なぜ誤解が生じるのか
両疾患が混同される主な理由は、症状が現れる場所が同じ「そけい部(足の付け根)」だからです。インターネット検索では梅毒に関する情報が目立ちやすく、患者さんが「自分は性病かもしれない」と誤解し、受診を躊躇してしまうケースが後を絶ちません。
梅毒とそけい部ヘルニアの違い
梅毒の特徴
梅毒は性感染症の一つですが、現代の日本の医療では適切な治療を受けることで100%治癒が可能な疾患です。治療が完了すれば完治し、その後の心配はありません。
梅毒の主な特徴:
- 性的接触によって感染する
- 初期症状として、感染部位にしこりや潰瘍ができる可能性がある
- 抗生物質による治療で完治が期待できる
- 早期発見・早期治療が重要
そけい部ヘルニアの特徴
一方、そけい部ヘルニアは腹壁の弱い部分から腸などの臓器が飛び出してくる疾患です。梅毒とは全く異なる病態で、以下のような特徴的な症状があります。
- 立つと膨らみ、押すと戻る
- 夕方ごろに大きくなることがある
- 咳き込んだり、力んだりするとポコッと出現する
- 自然治癒しない
- 成人では必ず進行していく
特に「押すと戻る」という特徴は、そけい部ヘルニアを見分ける重要なポイントです。
そけい部ヘルニアの症状チェックリスト
以下のような症状がある場合、そけい部ヘルニアの可能性が考えられます。
- そけい部(足の付け根)にしこりや膨らみがある
- 立っているときや力を入れたときに膨らみが大きくなる
- 横になったり、手で押したりすると膨らみが引っ込む
- 違和感や軽い痛みを感じることがある
- 時間とともに膨らみが大きくなってきた
これらの症状に心当たりがある方は、早めに外科を受診することをおすすめします。
そけい部ヘルニアを放置するリスク
嵌頓(かんとん)という危険な状態
そけい部ヘルニアの最も深刻な問題は、放置することで生じるリスクです。症状を放置すると、飛び出した腸が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という状態に陥る可能性があります。
嵌頓状態では以下のような危険があります:
- 腸への血流が遮断される
- 放置すると腸が壊死する恐れがある
- 緊急手術が必要になる場合がある
特に女性に多い大腿ヘルニアは高リスク
女性に多く見られる「大腿ヘルニア」は、嵌頓率が約30%と非常に高いことが報告されています。痛みが軽度でも、腸壁の一部がはみ出すことで腸の一部が壊死してしまうケースもあるため、特に注意が必要です。
そけい部ヘルニアの治療方法
外科での手術治療
そけい部ヘルニアの根本的な治療は手術です。現在では医療技術の進歩により、以下のような治療が可能になっています。
- 日帰り手術が可能なクリニックも増えている
- 手術時間は約60分程度
- 腹腔鏡手術など、体への負担が少ない術式もある
早期に発見し、適切なタイミングで手術を受けることで、嵌頓などの合併症を予防することができます。
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よくある質問(FAQ)
Q1: そけい部の症状があるとき、何科を受診すればよいですか?
A: そけい部の膨らみやしこりがある場合は、外科(特に消化器外科や一般外科)を受診することをおすすめします。泌尿器科を経由して外科に紹介されることもありますが、直接外科を受診しても問題ありません。
Q2: そけい部ヘルニアは自然に治ることはありますか?
A: 成人のそけい部ヘルニアは自然治癒することはありません。むしろ時間とともに進行していくため、早期の治療が推奨されます。
Q3: 手術を受けるタイミングはいつが良いですか?
A: 診断がついたら、症状が軽いうちに計画的に手術を受けることが望ましいとされています。嵌頓状態になってからでは緊急手術が必要になり、リスクも高まります。
Q4: 梅毒とそけい部ヘルニアを自分で見分けることはできますか?
A: 「立つと膨らみ、押すと戻る」という症状はそけい部ヘルニアの特徴的なサインです。ただし、自己判断は危険ですので、必ず医療機関を受診して正確な診断を受けてください。
まとめ
そけい部に症状がある場合、梅毒よりもそけい部ヘルニアである可能性が圧倒的に高いことをご理解いただけたでしょうか。
重要なポイント:
- そけい部ヘルニアは梅毒の約15倍の発生頻度
- 「立つと膨らむ、押すと戻る」はそけい部ヘルニアの特徴
- 自然治癒せず、放置すると嵌頓のリスクがある
- 早期発見・早期治療で安全に治療可能
「もしかして性病かも」という不安から受診を躊躇せず、まずは外科を受診して正確な診断を受けることが大切です。そけい部ヘルニアは適切な治療で治すことができる疾患です。気になる症状がある方は、早めに医療機関にご相談ください。
※本記事の内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断や治療を行うものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

