鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)の手術を検討している方の中には、
「必ず入院が必要なのか?」
「日帰り手術は安全なのか?」
と不安を感じる方も少なくありません。
この記事では、鼠径ヘルニア専門医の視点から、日帰り手術と入院手術の違いを整理し、患者さんが納得して治療法を選べるように解説します。
日本に根強い「手術=入院」という考え方
世界で最も長い日本の入院日数
OECDの統計によると、日本は先進国の中で最も平均入院日数が長い国です。
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急性期病床:約11日
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療養病床:数週間以上
このため「手術といえば入院」という固定観念が強く、日本では短期・日帰りの治療が普及しにくい背景があります。
白内障手術での国際比較
例として白内障手術を見てみましょう。
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日本:日帰り率 約52%
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ドイツ:82%
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アメリカ・フランス:90%以上
日本は欧米に比べ、日帰り手術の普及が遅れていることがわかります。
鼠径ヘルニア手術の国際比較
日本とアメリカの大きな差
鼠径ヘルニア手術の日帰り率は、
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日本:約8%
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アメリカ:約80%
と、10倍もの差があります。
この違いには文化・制度・医療機関の構造が大きく関係しています。
入院手術が選ばれやすい理由
診療報酬制度の影響
医療機関が入院を勧める背景には「診療報酬」があります。
手術ごとの医業収入比較(外来 vs 入院)
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鼠径ヘルニア:30万円 vs 50万円
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白内障:14万円 vs 22万円
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大腸ポリープ切除:7万円 vs 18万円
入院には「短期滞在管理加算」がつくため、病院にとっては収益性が高いのです。
結果として、患者の希望よりも経営上の理由で入院が選ばれやすいのが現実です。
日帰り手術に向かないケース
すべての患者さんが日帰り手術の対象となるわけではありません。
次のような場合は入院手術が推奨されます。
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全身状態に問題がある場合
心臓・肺・脳疾患を抱える方 -
肥満
BMI35以上 -
抗血小板薬・抗凝固薬の服用
複数の抗凝固薬を使用中の方
日帰り手術の流れ(所要時間:約4時間)
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来院・受付
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待機(約1時間)
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手術(60分以内)
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回復室で休憩(約1時間)
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医師の診察・会計
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帰宅
回復室にはリクライニングチェアが設置され、気分不良があれば十分に観察を行います。
日帰り手術のメリット
国レベル:医療費削減効果
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1件あたり約20万円削減
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年間15万件の手術のうち日帰り率を8%→40%にするだけで、数百億円規模の削減効果
患者さんのメリット
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生活への影響が少ない
→ 介護や仕事を休めない方でも治療可能 -
通院回数が少ない
→ 術前検査と手術を同日実施、術後は1〜2回の外来のみ -
感染リスクが低い
→ 入院しないため院内感染の心配がほぼゼロ
医療機関のメリット
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専門クリニックでは1日3件以上の手術が可能
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医療資源の効率的な活用につながる
安全性への配慮
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外科専門医による執刀
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手術時間60分以内を維持
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合併症率は低水準(約6%)
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翌日の電話フォロー・LINE相談
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近隣総合病院と連携
これらの体制により、日帰りでも安全性が確保されています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 日帰り手術は入院手術より安いですか?
A. 保険診療では自己負担額に大きな差はありません。メリットは「生活の質」と「時間効率」にあります。
Q2. 手術後に痛みが強い場合は?
A. 翌日の電話確認やLINE相談で対応。緊急時は近隣病院と連携しています。
Q3. どんな人が日帰り手術に向いていますか?
A. 全身状態が良好で、BMI35未満、抗凝固薬を多剤服用していない方が対象です。
Q4. 手術当日は付き添いが必要ですか?
A. 安全のため、ご家族の付き添いを推奨しています。
まとめ
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日本では「手術=入院」という固定観念が根強いが、鼠径ヘルニアは日帰り手術が十分可能。
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日帰り手術は費用差こそ小さいが、生活・仕事・介護への影響を最小限にできる点で大きな価値がある。
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自分の健康状態や生活環境を考え、主治医と相談して最適な治療法を選ぶことが重要です。