
【外科医太田勝也のブログ #2】腹腔鏡手術と全身麻酔:日帰り手術の安全性は「麻酔科専門医」の常勤で勤務していることで高まります
本日のテーマは「腹腔鏡手術と全身麻酔」。腹腔鏡(内視鏡)で行う鼠径ヘルニア手術は、創が小さく回復が早い一方で、全身麻酔が前提になります。日帰りでも安全に行うためには、術前評価から術後回復まで一気通貫で管理できる体制が不可欠です。当院では常勤の麻酔科専門医が常駐し、日帰り麻酔の運用を支えています。
なぜ腹腔鏡は全身麻酔が基本か
腹腔鏡手術ではお腹に二酸化炭素(CO₂)を入れて視野を作るため、筋弛緩と気道の確実な確保が必要です。体位を変えたり、お腹の圧が変動したりする場面でも呼吸や循環を安定させるため、全身麻酔下での細やかな調整が安全性に直結します。
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CO₂気腹で横隔膜が押し上がる → 換気管理が重要
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筋弛緩で腹壁を緩める → 手術の精度と安全性が向上
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体位変換や長時間の同一姿勢 → 循環・体温管理が必要
日帰り手術麻酔で大切にしていること
術前評価(リスクの見える化)
既往歴、服薬(抗凝固薬・糖尿病薬など)、アレルギー、睡眠時無呼吸、心肺機能、既往の麻酔トラブルの有無を確認します。必要に応じて心電図・採血・画像などを組み合わせ、日帰りに適切かを判断します。
術中管理(安全と快適の両立)
標準モニター(心電図・血圧・SpO₂・呼気CO₂など)に加え、体温・体位・点滴管理を含む総合的なコントロールを行います。低体温予防、出血・体液バランスの調整、気道と換気の最適化で合併症を減らします。
術後ケア(早期回復のデザイン)
吐き気予防(PONV対策)とマルチモーダル鎮痛(麻酔薬・鎮痛薬の組み合わせ)で「気分不良を最小化しつつ、痛みを抑える」ことを重視。歩行・飲水・軽食の再開を安全に促し、退室基準に沿ってご帰宅いただきます。
麻酔法の比較(患者さん向け)
鼠径ヘルニア手術では術式により選択肢が異なります。腹腔鏡(TAPP/TEP)は全身麻酔が基本です。
麻酔法 | 向いている手術 | 日帰り適性 | 特徴(患者さん目線) |
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局所麻酔+鎮静 | 一部の開放(前方)修復 | ◯(症例選択次第) | 眠気がある程度で呼吸は自力。術中の違和感を感じることあり。 |
脊髄くも膜下麻酔(腰椎麻酔) | 開放(前方)修復 | ◯(排尿・血圧変動の管理が鍵) | 下半身の痛みを抑えるが、術後の足のしびれや吐き気対策が必要な場合あり。 |
全身麻酔 | 腹腔鏡(TAPP/TEP) | ◎(当院は日帰り設計) | 完全に眠った状態で呼吸管理・筋弛緩を最適化。術中の快適性と精度が高い。 |
当院に麻酔科専門医が常駐する理由
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安全性:呼吸・循環の変化に即応し、合併症リスクを下げる。
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個別最適:年齢・体格・持病・仕事復帰予定に合わせた麻酔設計。
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快適性:吐き気対策と痛みコントロールで「痛くない、気持ち悪くない日帰り手術」を目指す。
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術後の見守り:回復室での評価と退室基準の厳密な判定。