― 早期介入が健康寿命を延ばします ―
はじめに
当院では、**加齢や生活習慣によって移動能力が低下する「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」**の予防・早期発見・改善に力を入れています。
「最近、階段の昇り降りがつらい」「ちょっとした段差でつまずく」といった訴えは、ロコモの初期サインかもしれません。寝たきりや要介護状態を防ぐには、早期の評価と対応が非常に重要です。
ロコモティブシンドロームとは?
ロコモとは、骨・関節・筋肉・神経などの「運動器」の機能が低下し、立つ・歩くといった移動動作が困難になる状態です。進行すると日常生活に支障をきたし、介護が必要となるリスクが高まります。
ロコモは、以下のような背景によって発症します。
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加齢による筋力・骨密度の低下
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運動器疾患(変形性関節症、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症など)
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運動不足や不良姿勢の習慣
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肥満・低栄養状態
ロコモの主な症状
以下のような訴えがある方は、ロコモの可能性が疑われます。
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靴下を立って履けない
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片脚立ちが10秒以上できない
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家の中でもつまずく、手すりがないと階段が不安
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15分以上歩けない
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横断歩道を渡りきれない
これらは「ロコチェック」として、日本整形外科学会でも用いられている指標です。
医療機関での評価と対応
当院で実施している評価方法
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身体機能評価:歩行速度、片脚立位時間、下肢筋力測定など
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画像診断:X線、MRI、骨密度測定などによる運動器疾患の精査
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ロコチェック表による問診:簡便かつ信頼性のある自己評価ツール
ロコモの進行度と対応方針
ロコモ度 | 状態 | 主な対応 |
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ロコモ度1 | 軽度機能低下の兆候 | 指導のもとで運動療法・生活指導の導入 |
ロコモ度2 | 移動に困難を伴う | 理学療法士と連携した個別リハビリの実施 |
ロコモ度3 | 生活動作に支障、要介護リスク高 | 外来リハビリ・訪問リハビリ、福祉サービス紹介 |
予防と改善に有効なアプローチ
1. ロコモーショントレーニング(ロコトレ)
日本整形外科学会が推奨する「ロコトレ」は、自宅でできる簡単な運動です。
● 片脚立ち(1分×左右2セット)
→ バランス能力と下肢筋力の強化
● スクワット(10回×3セット)
→ 太もも・お尻・膝関節の強化
2. 有酸素運動
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ウォーキング(1日30分程度)
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サイクリング
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水中歩行(膝や腰に負担をかけず運動できる)
3. 栄養指導
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タンパク質・カルシウム・ビタミンD/Kの摂取指導
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サルコペニアやフレイル予防としての栄養評価
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必要に応じて管理栄養士による栄養相談
栄養素 | 働き | 食材例 |
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タンパク質 | 筋肉の合成・修復 | 肉、魚、大豆製品 |
カルシウム | 骨の強化 | 牛乳、チーズ、小魚 |
ビタミンD | カルシウム吸収を助ける | 鮭、きのこ類、日光 |
ビタミンK | 骨の代謝を調整 | 納豆、ブロッコリー |
4. 社会参加・口腔ケアの促進
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趣味やボランティア活動への参加支援
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嚥下・咀嚼機能の維持に向けた歯科連携
まとめ
ロコモティブシンドロームは、「歩く力」「立つ力」を失う前に気づくことが何よりも大切です。症状が出てからの受診ではなく、日頃からの意識と習慣が健康寿命の延伸につながります。